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歴史を動かしたのは、日本での「ある学生」との会話だった

私たちの日常とつながる「自由」の感覚

ジェームズ・メレディス(写真中央)

ジェームズ・メレディス(写真中央)

「自由の国アメリカ」。そんなイメージとは裏腹に、かつて母国では一人の人間として平等に扱われず、ここ日本でようやく「自由」を知った青年がいました。

実は、アメリカ公民権運動の歴史的な英雄の中に、「日本で初めて自由を感じ、日本での経験が戦うきっかけになった」 と語る人物がいます。

彼の名は、ジェームズ・メレディス。かつて白人専用だったミシシッピ大学に、命がけで入学した最初の黒人学生です。

今回は、教科書には載っていない、日本との意外な関わりについてお話しします。

日本で見つけた「アメリカ人」としての自分

1952年の立川基地

1952年の立川基地

物語の舞台は、1950年代までさかのぼります。当時25歳前後だったジェームズ・メレディスは、空軍の一員として日本の立川基地(現・立川駐屯地)に駐留していました。

当時のアメリカ南部は、ジム・クロウ法(人種隔離法)の真っ只中。しかし、彼は日本での暮らしについてこう振り返っています。

「日本では今まで感じたことがないほど自由だった。まず第一に、”アメリカ人"として扱ってもらえた」

基地の近くを散歩していたある日、彼は一人の日本人学生と出会います。メレディスは、リトルロック高校事件(黒人高校生の入学を白人が妨害した事件)や、故郷の差別の実情について彼に話しました。

すると、その日本人学生は、メレディスが差別のある故郷にあえて戻りたがっていることが、どうしても信じられない様子でした。

この素朴な疑問と驚きが、メレディスの心を動かしました。「故郷のミシシッピに戻り、より良い社会にするために戦うべきだ」。この出会いが、彼にそう決意させたのです。

たった一人の戦い、そして暴動

帰国後、彼はその決意を実行に移します。 当時、ミシシッピ大学(通称オールミス)は、古き良き南部の伝統を守る白人社会の象徴でした。

  • 理不尽な拒絶: 彼は十分な学業成績があり、州の納税者の43%は黒人であったにも関わらず、入学を拒否されました。
  • 政治的な駆け引き: 当時の州知事ロス・バーネットは、保守的な白人票を集めるために差別感情を煽り、入学を妨害。ケネディ大統領との秘密裏な交渉も行われていました。

そして1962年9月30日、彼が入学登録をしようとしたその日、オックスフォードの街は戦場と化しました。 たった一人の黒人学生が大学に入ろうとしただけで、暴徒化した人々が護衛の連邦保安官を火炎瓶や銃で襲撃。2名の死者と100名以上の負傷者を出す大惨事に発展してしまったのです。事態を重く見た当時のケネディ大統領は軍の出動を命令し、ようやく暴動は鎮圧されました。

「恐怖」に抗う強さ

ミシシッピ大学で学位を授与されるジェームズ・メレディス

ミシシッピ大学で学位を授与されるジェームズ・メレディス

その後、彼は無事に入学登録を済ませましたが、キャンパスでの日々は苦難の連続でした。毎日のように嫌がらせを受けたのです。

それでも彼は屈しませんでした。「ミシシッピ州が持つ力よりも強い力、すなわちアメリカ軍を味方につける必要がある」と冷静に分析していた彼は、24時間体制で陸軍兵に守られながら勉強を続け、1963年、ついに政治学士を取得して卒業しました。

彼の戦いはその後も続きます。1966年には黒人の投票登録を促すために単独でテネシー州メンフィスからミシシッピ州ジャクソンまで「恐怖に抗する行進」を行い、その最中に銃撃されるという事件も起きました(この時、苦悶の表情で倒れる彼の写真はピューリッツァー賞を受賞しています)。しかし彼は一命を取り留め、最終的にこの行進を完遂しました。

終わらない課題と、これからの私たち

ジェームズ・メレディスの行動によって、ミシシッピ大学の人種隔離政策は撤廃されました。しかし、これで「めでたしめでたし」ではありません。制度上の隔離がなくなっても、ミシシッピ州には今なお根深い人種差別の問題が残っています。

1992年には人種格差是正を求める裁判(United States v. Fordice)で、州の対策が不十分だという判決が下されました。

さらに2025年には、公立学校でのDEI(多様性・公平性・包括性)に関する取り組みを禁止する措置が提出され、連邦裁判所が差し止める事態になるなど、人種格差に関する火種は今もくすぶっています。

日本で彼が出会った学生は、自分がメレディスの人生を、そしてアメリカの歴史を動かす背中を押したことなど知らなかったかもしれません。

異なる文化を持つ私たちが、互いの現状を話し、驚き、共感する。そんな日常の「対話」こそが、社会を少しずつ前に進める原動力になるのかもしれません。


参考文献

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